2020.8.28

人と人をつなぎ地域を活性化する空間を創造する
RYOZAN PARK「クリエイターズギルド」

「こんな店を作りたい」「人が集まる場にしたい」。そんな夢を抱く人たちを応援するために、RYOZAN PARKの「クリエイターズギルド」が発足しました。RYOZAN PARKのシェアオフィスやラウンジ、創造性溢れる「シェアキッチン」の空間を手がけた建築やアートのチームが、思い描く世界観をかたちにします。空間づくりを通じて、地域やコミュニティを活性化する新たな試みとは?オーナーの竹沢徳剛さんと、「クリエイターズギルド」のメンバーで美術家の小池雅久さんに話を聞きました。

地域の人たちの夢の相談に乗ったら…

――「クリエイターズギルド」という新しい取り組みが立ち上がった経緯は?

竹沢:もともと僕の仲間たちが、小池さんたちの力を借りて、自分のやりたい空間や場を作っていたんですよ。シェアオフィスを利用している小学生の同級生から、地元の大塚や池袋で「僕は美容室を作りたいんだけど」とか「フォーの店を作りたいんだけど」っていう友人の相談に乗ってくれと頼まれて、話を聞いて「うちにいい人がいるよ」と小池さんや(交渉担当の)大山さんを紹介したことがきっかけですね。僕は普通に紹介していただけなんだけど、そういう場を作るだけじゃなくて、コミュニティも一緒に作れるのが僕たちの強みなんじゃないか、という話になったんです。場を作るだけじゃなくて、コミュニティを作るところまで手伝ってあげたらいいんじゃないかと。RYOZAN PARKのコミュニティには、コミュニティマネージャーやデザインをやってくれる仲間たちも集まっているから、みんなでチームになっていろんなニーズに対応してあげられるな、と思って立ち上げたんです。

ひとつひとつ、想いの乗る言葉を選びながら話す、オーナーの竹沢さん。

――RYOZAN PARKのコミュニティには、いろんな職種の人が集まっているんですね。

竹沢:もともとRYOZAN PARKは、東日本震災をきっかけに多様性のあるコミュニティを作りたいと思って、自分の生まれ育った巣鴨で、日本全体のことも考えながらも、まずは自分の周りの半径5メートルから始めようと思って、コミュニティを作って始めたシェアハウス。RYOZAN PARKは、(中国の小説)『水滸伝』の「梁山泊」からとっているんですよ。志あるはみ出しものたちがどんどん集まってきて「梁山泊」の仲間になっていく。シェアハウスのコミュニティでパーティや飲み会をしたときに、いいなって思う友達を連れてきたときは、寄ってたかって「お前入れよ」って入れちゃう。「おれ、解約届出しといたから」みたいな感じで、引きずりこまれた人たちもいるわけ(笑)。住人には、「60、70歳まで酌み交わせる仲間として付き合ってる」と伝えて、入ってもらったりしてる。

小池:どちらかというと、「クリエイターズギルド」は周辺の外部の人たちかな。外からRYOZAN PARKに引っ張り込まれて、「一緒にやってもいいな」と思ってる人たちですね。

「アート」がわかる建築チームの魅力

――小池さんは、どんなバックグラウンドなんですか?簡単に自己紹介してもらえますか。

小池:僕はもともと彫刻家なんです。美術大学でたまたま選んだのが彫刻だった。現代美術が専門領域で、大学を出てずっと美術のレールの上に乗っていたんですけど、あるとき、バブルが崩壊した影響も受けて、今までのようには作れなくなってきた。そこから、ふと美術界の画廊や美術館を中心とした動きではなくて、この世の中で、美しさやアートはどこにあるんだろうってところに興味が湧いて。美術界といわれる世界から一歩出て、自分で探したほうがいいんじゃないかと。その流れが今につながっています。今もアートをやっていることに変わりないんですけど、店舗や建物を作ったり、東北の山奥で環境教育の場づくりをするNPOと協力して、パーマカルチャーのプログラムを作ったり、子どもたちを集めてアートのワークショップをしたり。どちらかというと、コミュニティデザインや環境教育。“ものづくり”というよりも“人づくり”。美術家としては、大きくいうと建築とアートのはざまに住んでいます。

――アートにも造詣が深い「クリエイターズギルド」が建築を手がけると、どんな空間づくりができるのでしょうか?

竹沢:オリジナルのものができる。どんどん味が出てくる空間になる。壁紙は数年たてば、剥がれ落ちてくるけど、こういう石にしても土にしても、どんどん味が出てくるんですよ。

小池:(年数を経るごとに)魅力を増していくんです。例えば、この空間には壁紙は1枚も使ってないんですよ。全部左官という(手法で)物質をこてで壁に塗っている。木の塊も、その場で製材して使っていく。職人の手がかかっているんです。いまの建築は、人には金がかかるので、現場の工費を減らして、外で作った製品を取り付けて最小限の時間しかかけない。メーカーは儲かるけど、職人さんは決まった取り付け方をするだけで、彼らにお金は入らないのが現状なんです。

――予算のかけ方を工夫すると、職人の技が引き出せるんですね。

小池:人に対してお金を払うのは、とても重要。メーカーに入っていたものを人に払うだけだから、結果的にお金は変わらないと思います。僕らは、基本的に人に向けて仕事をしているので、相手が喜べばそれでオッケーだから。僕らはいろんな職人さんを束ねて空間を作るのが仕事ですが、彼らもこういう空間づくりをやっていきたいと思っています。みんなやる気を持ってアイデアを出してくれる。

人と人をつなぐ「建築」の力

――RYOZAN PARKのコミュニティにとって、建築の試みはどんな意味があると思いますか?

小池:建築は、いろんな人間を集められて巻き込めるのが面白い。空間づくりは一人では絶対にできない。一人では時間も足りないし、重いものも持てない。建築を間に置くことで、いろんなものにつながれる。巻き込むツールとしては最高だなと思います。今回作ったシェアキッチンも、「食」を中心に置くことで、ほとんどのものとつながれる。食べない人はいないし、好き嫌いはあっても「これは苦手だけどこれは好きだよ」「え、それ好きなの?」みたいな会話が生まれて、いつの間にかつながることができますよね。僕は、建築にもそういう要素があって、店や空間を作っていくことで、いろんな人たちが関わって共同作業ができることに価値があると思っています

――建築もまた、人と人をつなぐツールなんですね。

小池:僕自身の興味はそこにありますね。ただ「こういう空間を作ってくれ」「レストランを作ってくれ」という話ではなくて、そのレストランを作りたい人がどんな人なのか。そのオーナーが面白ければやりたいと思うし、周りにいろんな人がいたら、さらにやる気になる(笑)。僕はもともとアートの世界にいましたけど、美術よりも建築の方が人をつなぐ力があると思っています。

「建築」を起点に地域を活性化する

――下町の巣鴨や豊島区エリアだからこそできることは?

小池:巣鴨という土地は、おばあちゃんの町で、高齢化した日本の最先端でもある。近くに芸大があって芸術家もいるし、地域の伝統が色濃く残っている。ここから起こることは、これからを変える可能性はあると思いますね。

竹沢:全国で同じような問題はいっぱい起きていると思う。やっぱり少子高齢化で過疎化が進んできて、公共施設をどうしようと悩んでいる。昔の行政は建物を建てて「ハイ終わり」だった。でも大事なのは、そこにいかに魂を入れるか。いかに人を集めて、人をつなげて賑やかな空間にするか。僕たちにはイベントを企画できるメンバーも揃っているからね。

小池:東京はビルがいっぱい立っているけど、その分空きビルも増えて、誰も借りないような商店街は山ほど出てくるでしょう。今後そういう相談事は、豊島区界隈だったら、ノリさんのところに来るはず。ノリさん一人では対応できないけど、「相談事に乗るよ」という姿勢が必要なんですよ。やれる人につないでいけばいい。それがクリエイターズギルドの原点。

――コミュニティの力で、地域の活性化していくことにもつながりますね。

竹沢:RYOZAN PARKのコミュニティは、針葉樹林じゃなくて広葉樹林の森と言っているんですよ。明治神宮を作ったとき、カシやクスノキやいろんな木を持ってきて、100年かけて循環する森が作られたという話を聞いて、そういうふうにしたいと思ったの。コミュニティにもいろんな人間が集まってきて、自然発生的に出会いが生まれたり、プロジェクトが生まれたりっていう環境になればいいなと。

小池:ノリさんの存在は大きくて、そういうものすごく大きな未来像、世界観があるから、こういう世界を作ろうって夢を持てる人がいたら、一緒にかたちにしていけばいい。大きな世界観をみんなで作っていく話だったら、もっといろんな人を集められる。ノリさんはよく「筋肉を鍛えろ」とか言ってるし(笑)、思いつきもあるけど、芯はブレないんですよね。それが人を惹きつける原動力。ノリさんが描く未来像があれば、僕たちはブレずに、大きな世界に向かって進んでいけると思います。

Interview・Writing| Kaori Sasakawa
Photo | Sam Spicer
Edit | Tomoyo Hashida