2020.10.31|INTERVIEW

RYOZAN PARKの「シェアキッチン」の魅力と可能性

RYOZAN PARKが展開する、次なるシェアオフィスのテーマは「食」。プロ仕様の本格的なオープンキッチンを起点として、地域の人の仕事や暮らし、そして農家や生産者をつなぐ新たなシェアオフィスが巣鴨にあるRYOZAN PARKグランド東邦ビルの1階に誕生しました。一体どんな空間なのでしょうか。オーナーの竹沢徳剛さんと、「シェアキッチン」をデザインし建築を手がけた美術家の小池雅久さんに話を聞きました。

人をつなぐ理屈を超えた“かっこいいもの”

――まず、「シェアキッチン」を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

竹沢: 2019年に小池さんとRYOZAN PARK Loungeのワークスペースとラウンジを作ったんですよ。ニューヨークで見かけた人間と動物が自然にいる絵がきっかけに、都市で暮らしていると大きな資本主義の中で生かされていて、どんどん野性味が失われていくから、小池さんに「野生を取り戻すような空間にしてほしい」とお願いしたんです。

妻のレイチェルがスコットランド出身なこともあり、「スコットランドの廃墟の農家」がテーマの空間になったんだけど、遊びに来た音楽家たちが「ぜひ音楽イベントをさせてください」「こういう空間だと、モーツアルトが表現できるような感覚がするんです!」って言い出して、音楽イベントが開かれるようになったんですよ。

――ワークスペースですが、ピアノやソファがあって音楽会ができる空間ですね。

竹沢:クラシックはかしこまって聴くことが多いけど、僕たちは、ピアノの周りに集まって、お酒を飲みながら、みんなでわいわいガヤガヤしながら、音楽を楽しんだんですよ。

音楽を通して、コミュニティがつながって、全然知らない者同士が仲良くなる場を目の当たりにして、やっぱりコミュニティを進化させていくには、「音楽」とか「芸術」とか、僕がいつも言ってる「筋トレ」とか(笑)、理屈を超えた“かっこいいもの”なんだと。

身をもってそういう体験をして、今度のシェアオフィスの話をしたら、小池さんから「食じゃないか」とアドバイスをもらって。「食」を通して、ここでしかできないクラフトな体験するのはいいんじゃないかと思って、「シェアキッチン」を作ることに決めたんです。

――こんな空間が作れてしまう小池さんは、一体どんなバックグラウンドなのですか?

小池:僕はもともと彫刻家なんです。美術大学でたまたま選んだのが彫刻だった。

ずっと美術のレールの上に乗っていたんですけど、あるときから、美術界の画廊や美術館を中心とした動きではなくて、この世の中で、美しさやアートはどこにあるんだろうってところに興味が湧いて、美術界から一歩出て、自分で探したほうがいいんじゃないかと。その流れが今につながっています。

今もアートをやっていることに変わりないんですけど、店舗や建物を作ったり、東北の環境教育の場づくりをするNPO、パーマカルチャーのプログラムを作ったり、子どもたちを集めてアートのワークショップをしたり。コミュニティデザインや環境教育、“ものづくり”というよりも“人づくり”。美術家としては、大きくいうと建築とアートの狭間に住んでいます。

「シェアキッチン」を作る理由

――シェアオフィスに、キッチンがあると、どんな空間が生まれるでしょうか。

竹沢:RYOZAN PARK大塚は、0~5歳の子どもたちを連れてきて、親たちが一緒に働ける空間だけど、巣鴨では、小学生や中学生のいるお母さんも忙しく働いていて、今後「ごめんね。帰れないからコンビニでご飯買って食べて」というケースが出てくるかもしれないなと。

そういうときに、「うちの職場にいらっしゃいよ」と言えて、誰かが作ってくれたカレーを食べて帰るとか、子どもたちも一緒に宿題をやるとか、子ども中心にはならないけど、子どもたちも来られるような空間を作りたいと思ったんです。

僕自身は、母方の祖父が神田で小さな商売を営んでいて、帰りに行くと、おじさんおばさんみたいな存在の従業員がいて、彼らに教えてもらったり遊んでもらったりした経験があって。昔ながらの下町の零細企業の「大家族」的な雰囲気のなかで育ったんです。

シェアオフィスでは、それぞれ違う仕事かもしれないけれど、子どもが来ても温かく「元気か?」と迎えてあげられるような雰囲気になったらいいなと思います。

――キッチンがあることで、いろんな人の居場所になる可能性がある。

竹沢:僕たちが目指しているものは、新しいようで実は古い。昔ながらの「大家族」的なものがちょっとだけ残っているリバイバル版みたいなものかもしれない。

多様性があって、いろんな国籍のいろんな人たちが集まって、一緒に切磋琢磨しあって、お互い成長していく。分かち合うものは、有形無形のものもあるけど、苦しさや悲しみもみんなでシェアすれば、10分の1、100分の1になるし、楽しいこと美味しいものは10倍、20倍、200倍になっていくから。

――美味しいものを「シェア」していけばいい。

竹沢:「うまい肉をゲットしたら、みんなでシェアしろ」と言っているんですよ(笑)。1人でバーベキューしても楽しくないだろって。食が中心というよりは、食を通じてコミュニティが仲良くなっていく。原始共同体みたいな縄文的なライフスタイルが感じられたらいいなと、本格的なシェアキッチンを作っているところもあります。

絶対これからの友だちとのパーティは、小洒落たレストランで合コンするんじゃなくて、「うちのキッチン来いよ」ってワイワイやって、焼き立てをみんなで食べるほうが、安くできて圧倒的に仲良くなる気がする。それが、これからの人と人をつなぐということ。

”顔の見える” 自然に近い素材をふんだんに

――具体的に、どんなところにこだわってキッチンを作ったのでしょうか。

小池:キッチンは最先端ですね。

竹沢:シェアキッチンは、どこでも誰でも、プロでも使える空間。飲食業の許可や、菓子製造業の許可も取りたいと思ってる。Uber eatsも宅配できるようにして、食の起業家も育てられたらいいなと。ここを実験場にして、いろんな人にいろんなものを作ってほしいですね。

嬉しいことに、ドイツの食洗機やIHを取り合っている会社や、イギリスのキッチン用品メーカーもRYOZAN PARKのコンセプトに共感してくれて、調理器具や商品を提供してくれたんですよ。世界的な大企業も、「新しい働き方の実験場」として我々を注目してくれているんじゃないかと思う。

――デザインや設計の視点では、どんな工夫をされたんですか?

小池:できるかぎり自然に近い素材を使っていますね。全てを自然素材に、というつもりはないんです。ただできる限り、自然に手が届く素材をふんだんに使いたいなと。とくに木を多めに使っています。最近は、消防法のチェックも厳しいので、東京の建築では、あまり木が使われなくなっているんですよ。

こだわりは、関わっている人がわかる素材を使うこと。現場では、木を切る人、製材する人、木を育てる人、みんながつながっていて、その人たちによってここまで運ばれてきて空間を作っています。

「食」に関しても同じことが言えますよね。生産者や産地があって、作る人、運ぶ人がいる。素材があって初めてシェフは腕を振れる。その流れが見えるのが理想かなと。

――どんな人にシェアキッチンを使ってもらいたいですか?

竹沢:今後、長野のリンゴ農家が、「リンゴジャムやアップルパイを作りたい」と言ってくれているし、シェアオフィスのメンバーにブドウ農家の息子がいるし、北海道の卸売りの人が、「今度、肉のパーティやろう」って言ってくれているし、地方のテレビの人も、「地域の食材のイベントをやりましょう」と声をかけてくれている。

小池:ここは一人でレストランをやるわけじゃない。レストラン的だけど、いくつものレストランを共有していく感じ。レストランのオーナーも、シェフが主体のところもあれば、具材が主体のところもある。いろんな人たちに実験的に使ってもらえたらいいなと。

食というと料理の話になりがちだけど、器や敷きものを作ってる人ともつながれる。食を通じて、どんな人ともつながれるので、「食」が中心にあるのはいいですよね。

人と人がつながる「食」の空間

――「シェアキッチン」は、ワーキングスペースとしても使えるんですよね?

竹沢:シェアオフィスは、ここもAnnexも、月額1万9800円で使えるんですよ。

シェアキッチンは、仕事してるヤツに「ほら食ってみて」「飲んでみなよ」ってちょっかいを出しあえる空間になったほうが面白い。そこから「で、何やってるの?」って会話やビジネスが生まれていくような。僕はタバコ吸わないけど、昔の喫煙所みたいな感じ。

小池:果たして、あそこで集中できるのか。

竹沢:“日本一仕事ができない”シェアオフィスを目指してる(笑)。でもクリエイティブになれる。

――「食」のおかげで会話が生まれますね。

小池:仕事しながらキッチンを覗けるのは良いですよね。堅苦しい事務室やオフィスだったら、会議が終わったら「帰ろう」となるけど、シェアキッチンで打ち合わせをしたら、「じゃあ飲もうか」となりますよね。その方がクリエイティブな話ができて発想も柔軟になる。

あと、空間を作るうえでも、子ども目線で「楽しい」ところを置きたいと思っていて、かまくらみたいな打ち合わせスペースを作ったのも、その視点から。

その建築がいいかどうかを判断する基準のひとつが、子どもの反応。

子どもが「もう帰ろうよ」という空間は、子どもにとっては居心地がよくないんですよ。逆に、子どもが走り回ったり探検したりできるところだと、「帰ろう」とは言わない。だから親も、落ち着いて仕事の話ができる。大人にとっても居心地がいいのは一緒なんですよね。

いろんな人が「旗」を立てられる場所

――実際に、空間を作っていくうえで、大変だったことはありますか?

小池:常にピンチ。常に大変でした(笑)。

竹沢:大工さんも大変ですよね。小池さんは図面を作りこまないで、デッサンでこういう空間にしようって伝えていく。そうすると、作り手さんたちは、「俺が小池さんだったらどう作るかな?」って考えて、頑張って作っているところがある。

小池:もちろん数字や図面を引かなくちゃいけない時もあって結構な枚数を書いていますけど、でも変わりますからね(笑)。それぞれに考えてもらえるのはありがたいですね。

――作り手のクリエイションの場にもなっているんですね。

小池:作り手って一人ひとり興味が違うんですよ。僕は、機械やAIじゃなくて、人とモノを作っているから、一人ひとりの個性が浮かび上がるデザインをする。それを引き出すのが自分の仕事だから、指示の仕方も違うんですよ。言葉で指示する人もいれば、絵を描いて伝える人もいる。型紙まで作って「あとはやって」と伝えることもある。

例えば、扉にレリーフをいれる作業は大工がやっているんです。彼は大工の腕は高くても、彫刻家ではない。最初に絵を描いて「これ作って」と言って、やり始めんだけど、こんなに薄い板にどうすればいいのかわからない。

じゃあ「レリーフ講座するか」と。一緒にレリーフを作って「ここを数ミリ下げれば、影ができるでしょ」と教えたんです。彼はそういうことが好きなの。そういうネタを入れ込むことで、やる気が上がっていくんですよ。

――「シェアキッチン」を通じて、RYOZAN PARKの新しい可能性も広がっていきますね。

竹沢:巣鴨は“おばあちゃんの原宿”で、ある意味、日本では時代の最先端の町。これから日本全体が巣鴨になっちゃう。だからデザイナーやアーティストやITの人たちは、渋谷より未来の日本を感じられる。東京の外れのニッチなところだからこそ、多様性のある連中が集まってくる。

RYOZAN PARKのコミュニティのシェアハウス内で結婚したカップルが20組以上いて、子どもたちが20人以上生まれて、コミュニティにはOB・OG含めて2000人くらいの仲間たちがいる。「近くにいると面白いこと起きる」って興味を持ってくれる人がたくさんいます。

昔ながらの良い住宅地で、「子育て」と「働く」と「住む」が、すぐ近くで循環していけるエリアだから、みんながサステナブルな気持ちになれる。いろんなものをシェアして生活を豊かにしていきたいと思える人たちが、どんどん自分の旗を立てていける空間にしたい。それを僕は応援したいと思っています。

Interview・Writing| Kaori Sasakawa
Photo | Sam Spicer
Edit | Tomoyo Hashida